世に棲む日々

久しぶりに本のレビュー。司馬遼太郎・著「世に棲む日々」。これは、幕末の長州、尊王攘夷運動の原動力となった、吉田松陰と、その弟子・高杉晋作の話だ。
吉田松陰といえば、松下村塾を開いたということくらいしかイメージが無かったのだが、この人のキャラクターは有り得なかったようだ。何が有り得ないかと言うと、接する人皆をひき付ける強烈な魅力があったということだが、その魅力とはどんな過酷な状況でも常に前向きだった点と、無鉄砲なまでの行動力だろう。黒船が来たときに、自分で船を漕いで接近しアメリカに連れて帰ってもらおうとしたらしい。かなり過激な尊皇攘夷思想を持っていたが、最終的には安政の大獄で処刑されてしまう。
そして弟子の高杉晋作は、松蔭とは違った意味で有り得なかったようだ。まず、松下村塾で松蔭の思想に触れ、革命家の道へと踏み出す。最初は勉強しに江戸に行ったのだが、品川の大使館に火をつけ、犯罪者となって萩に戻される。その後、上海に行き尊皇攘夷→西洋近代化への考えを変える。家庭と言うものを全く気に留めず、好き勝手に飛び回り、奇兵隊を設立したり、海軍を乗っ取りクーデターを起こす。そして、妾をつれて四国に逃げたりとか、やりたい放題だったっぽい。幕府を倒すというよりは、長州を1つの独立国として欧米の列強と肩を並べる存在にする事を夢見ていたようだ。
高杉晋作は、坂本龍馬などにかなり近い存在であると思うが、個人的には坂本龍馬より高杉晋作の方が好きだ。ただ、身の回りにこういう人が居たら、振り回されてかなり疲れるだろうなと思う。松韻にしても同じだ。
印象に残ったエピソードとしては、晋作は芸者をやとってドンちゃん騒ぎをするのが好きで、下関で即興で歌を作って歌ったのが大流行したらしい。その後しばらく経って歌もすっかり忘れられた頃、日清戦争が終わった後、伊藤博文(当時、晋作と行動をともにしていた)が下関に来たときに、たまたま芸者がその歌を歌い、伊藤は「もう一回やってくれ」といい無言で歌を聞き、当時を思い出して涙を流したという。

新装版 世に棲む日日 (1) (文春文庫)

新装版 世に棲む日日 (1) (文春文庫)

新装版 世に棲む日日 (2) (文春文庫)

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新装版 世に棲む日日 (3) (文春文庫)

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新装版 世に棲む日日 (4) (文春文庫)

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